改良ビートシートの解説

※このページでは分析に使う用語の導入部分を説明いたします。

■改良の狙い

当サイトならびに髙井が使用する「ビートシート」はハリウッド式をベースとしています。これは、分析を繰り返す中で実践的に改良したものです。そもそも、ハリウッド式といっても考え方は多様で用語ひとつとっても「プロットポイント」か「ターニングポイント」のように、人によって定義や意図が違います。実際に映画作品の分析をつづける中で、創作に有効と思えるものを取り入れて改良する中で改良されていったものが、現状使用している改良ビートシートです。今後も有効なものが見つかればアップデートをつづけていきます。

脚本に関する書籍は100冊以上目を通していますが、考え方の中心にあるといえる主な参考書籍は以下になります(※書籍名のリンク先はAmazonの商品ページです)。

『千の顔をもつ英雄』(ジョーゼフ・キャンベル、早川書房)

『素晴らしい映画を書くためにあなたに必要なワークブック シド・フィールドの脚本術2』(シド・フィールド、フィルムアート社)

『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』(ブレイク・スナイダー、フィルムアート社)

『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』(ロバート・マッキー 、フィルムアート社)

『ハリウッド・リライティング・バイブル』(リンダ シガー 、フィルム メディア研究所)

『作家の旅 ライターズ・ジャーニー 神話の法則で読み解く物語の構造』(クリストファー・ボグラー、フィルムアート社)

■三幕構成とスリーポインツ

構成を大枠で捉えるときに有効なのが「三幕構成」という考え方です。

物語全体を3つのアクト(幕)に分けることから三幕構成と呼ばれます。

各アクトには役割があります。

アクト1はセットアップ(状況設定)で、登場人物の紹介、テーマ、ジャンルやトーンなどを観客に提示して感情移入を促し、メインストーリーが始まる前の下準備を行います。

アクト2はディベート(葛藤/討論)で、その作品のメインストーリーが始まり、主人公が葛藤や対立をしながら目的に向かって進んでいく様子を描きます。観客を楽しませるシークエンスであると同時に、テーマに関するディベート(討論)が展開されることで、テーマの掘り下げが行われます。

アクト3のリゾルブ(解決)は物語のクライマックスであり、ストーリーとテーマの両面で決着をつけるシークエンスです。

各アクトを分けるポイントを「プロットポイント」と呼びます。

アクト1とアクト2を分ける点を「プロットポイント1」、アクト2とアクト3を分ける点を「プロットポイント2」と呼びます。

また、アクト2は長いシークエンスになるので、中央に「ミッドポイント」という中間点を置きます。

※分析表では青線で表記、Beat欄では以下の表記
「プロットポイント1」=PP1
「ミッドポイント」=MP
「プロットポイント2」=PP2

■ビートシート

「ビート」とは、各アクト内で起きるイベントやシークエンスを象徴した言葉です。

物語構成を建築に喩えるなら「スリーポインツ」は3本の大黒柱、それを支える支柱が各ビートといえます。

それぞれの「ビート」には物語展開上の役割があり有機的に関連しています。役割を果たしていれば「機能している」と言います。分析では「ビート」を当てはめていき「機能しているか?」「バランスが悪くないか?」「欠けていないか?」などを検証し、問題点を浮き彫りにし、修正方稿を探ります。

以下、「ビート」の基本的な役割の解説に合わせて『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』による実例を示します。

※分析表内の数字は、作中の時間を表す。

※青字は『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』でのエピソード。なお、スター・ウォーズは古典的作品で、現代のビートとして参考にするには問題点も多いが、ジョージ・ルーカスがジョーゼフ・キャンベルの影響を受けて、神話論に忠実に書いた作品のため、初心者のビート理解としては有用。

アクト1

「オープニングイメージ」(Image1):物語のテーマや舞台を象徴するような映像で観客を世界に引き込む。(宇宙空間にテーマ音楽とテロップにより、スターウォーズの世界観に引き込む)

「主人公のセットアップ」(want):観客に対する主人公の自己紹介。どういう人間かを見せて共感してもらう。「○○したい」という願望(want)を見せることで伝える方法も多く使われる。(ルークは「この星を出たい」と思っている)

「カタリスト」(Catalyst):主人公に起こる最初の事件、イベント。ファーストインシデント(最初の事件)、インサイティングインシデント(発端となる事件)などとも呼ばれる。メインストーリーへの誘導の役割も果たし神話論では「冒険への召命」という役割もある。「プロットポイント1」と勘違いされやすい。(ルークがレイア姫の映像を見る)

「ディベート」(Debate):カタリスト後の主人公のリアクションが描かれるシークエンス。神話論では「召命拒否」という役割を含み、主人公がすぐにメインストーリーに入らないことが重要になる場合も多い。(ルークはアカデミーに行くことを叔父に禁じられる一方、オビワンの誘いには躊躇する迷いの時間)

「デス」(Death):死の連想から、主人公の覚悟を決める地点。「カタリスト」と「ディベート」を経て、主人公は行動を起こさなければならない状況に追い込まれるケースが多い。主人公に新しいwantが付与されることも多い。(ルークの叔父と叔母が殺される。ルークは「ジェダイの騎士になる」「(オビワンとともに)オルデラーンへ行く」という決意をし、アクト2へ入っていく。)

「プロットポイント1」(PP1):構成上アクトを分ける点であり、神話論では主人公が「最初の境界を越える」地点といえる。新しい世界に入っていく演出が効果的になる。(ルークの旅が始まる。それは「ジェダイの騎士になる」修行の開始であり、「レイア姫を助け帝国軍と戦う」冒険の開始である)

アクト2

「バトル」(B):主人公のwantと「バリア」(障害)がぶつかることで対立、葛藤が起こる。「バトル」に勝利することで、トーナメントを勝ち上がるように主人公は「ミッドポイント」へと向かっていく。また、アクト2での非日常感を描く「ファン&ゲーム」(お楽しみ)という演出が効果的。(それまでの砂漠のエリアから宇宙人たちが集まるバーという非日常の場所へ入っていく。それはSF作品としてのお楽しみにでもある。目的地であるオルデラーンに到着するため、船を手に入れたり、オビワンからフォースを習いながら進んでいく)

「ピンチ1」/「サブ1」(Pinch1/Sub1):主人公が「ミッドポイント」へ向かうための中継点。新しい世界で出逢う新しい仲間が登場することも多い。主人公とは別の「サブプロット」が動き出すことも多い。「サブプロット」の展開としてしか機能していない場合は「サブ1」と呼ぶ。なお、ピンチは「ピンチに陥る」というような危機という意味ではなく「つまむ、挟み込む」という意味で「ミッドポイント」を挟むように2カ所置かれる。(「サブ1」として新しい仲間ハンソロとチューバッカと出逢う。同時にハンソロは「オルデラーンへ到着する」ために必要な段階であるため「ピンチ1」としても機能している)

「ミッドポイント」(MP):マラソンの折り返し地点のように、ゴールまでの中継点。アクト2に入って以降のwantが達成させる点として置かれることも多くある。その場合、False s Victory(偽りの勝利)といわれ、主人公はより深い本質的な勝利に向かうことになり、テーマがさらに掘り下げられる。「ミッドポイント」は演出的にも一つの見せ場となることも多く、演出上の感情曲線グラフを示す場合は頂点に登り切る。あるいはアクト2以降、悪い方向に進んでいた場合、どん底に落ち切った点となる。(最初の目的地であったオルデラーンに到着するが、すでに破壊されいる)

「フォール」(Fall):「ミッドポイント」が盛り上がりの頂点とする場合、落下が開始する点。それまで、主人公がうまくいっていた場合、問題が起き始めたり、新しい強敵が登場したりする。「ミッドポイント」で落ち切った場合、上昇が始まる。いずっれせによ、新しいシークエンスの開始する地点ともいえる。(デススターに捕まり、内部でのシークエンスが始まる)

「ピンチ2」/「サブ2」(Pinch2/Sub2):「ピンチ1」と対になることで「ミッドポイント」の対比を見せる点。「ミッドポイント」までを山登りに例えるなら、登りと下りで同じ地点を通っているが、印象は違う。「ピンチ1」で「サブプロット」が動き出していた場合、進展したり、新たなキャラクターが登場したりすることも多い。(レイア姫を救出し「サブ2」として機能している。「ピンチ1」で登場したハンソロのラブインタレストでもあるので、サブプロットとして対になっているともいえる)

「プロットポイント2」(PP2) オールイズロスト(AisL):「フォール」以降、落下していた流れが落ち切る点であり、アクト2以降、続けてきた冒険が終了する地点でもある。ビートをキャラクターアークとして捉える場合、「オールイズロスト」(すべてを失う)として描かれる。(オビワンがダースベーダーに倒されたことで、旅が終わりをつ告げたようにみえる。師匠を失ったという意味では「オールイズロスト」らしさもある)

アクト3

「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」(DN):「オールイズロスト」後、落ち込んだり迷ったりしているシークエンス。次の「ビッグバトル」への準備期間でもある。ビートを形式的に扱うと問題が起こりやすいビート。(ルークが落ち込み、レイア姫が慰める)

「ビッグバトル(スタート)」(BB)、(TP2):アクト3は作品のクライマックスでもあり、当然ながら演出上も最高潮になるシークエンス。アクト2での経験を経て、主人公は最後の決戦、テーマの決着などが描かれる。(ルークの冒険の旅は終わっていない。クライマックスであるデススター破壊作戦の説明を受けて、作戦が始まる)

「ツイスト」(Twist):「ビッグバトル」が単調にならないように差し込まれるビート。大きな「ツイスト」が1つ置かれる場合もあるが、小さな「ツイスト」が複数置かれる場合もある。(仲間の攻撃が失敗。ルークが破壊に挑むことになる)

「ビッグフィニッシュ」(BF):ビッグバトルの終了地点。通常、これ以降は「エピローグ」しか置かれない。(ルークが命中させてデススターを破壊。作戦終了であり、今作でのクライマックスは終了する)

「エピローグ」(Epilog):主人公のその後の様子が簡単に描かれることで、テーマの定着、観客の余韻を整えるシークエンス。だらだらと長引かないように注意する必要がある。(ルークとハンソロが表彰される)

「ファイナルイメージ」(Image2):作品冒頭に置かれた「オープニングイメージ」との対比で、テーマを暗示したりする点。「エピローグ」に含まれたり、作品のラストショットになることもある。(宇宙を背景に、テーマ音楽がかかりエンドロールに繋がる。今作が壮大な宇宙叙事詩の一部であったことを認識させられる)

■分析の実践

ビートは学校のテストのように「ひとつの決まった答え」があるようなものではありませんが、多くの人が、その分析に共感できれば「機能している」といえ、それは答えに近いともいえます。「機能している」とは、ビートの定義や理屈に当てはまるかだけではなく、「なるほど」「その通りだ」と感じてもらうように感情の部分で納得できるかどうかが重要です。理屈だけでビートを使うと、セオリー通りでも「作品がぜんぜん面白くない」ということになりかねません。大切なのは「機能していること」と「面白いと感じる感覚」を一致させることです。多くの人が共感できるビートであれば、観客にも共感を得られることになり、その分析や修正は物語の質を向上させることができるといえます。

分析をする際は、便宜上でもビートを当てはめることで物語の構造を明確にし、「機能していないビート」=問題点を見つけ出すことから始まります。まずは「スリーポインツ」から「三幕構成」としての大きな構造をチェックします。そもそもの設定やテーマにブレがある場合、「スリーポインツ」が基準点からズレていることが多く、その場合は「ログライン」(誰が主人公で、何をする話なのか)などを確認することから、修正していくことになります。「三幕構成」が固まってきたら、各アクトのビートを検証していきます。ビートを機能させることで、キャラクターアークを整えたり、深いテーマの掘り下げをしていくことで、物語は『面白く」なっていきます。この分析と修正の作業を繰り返すことで、完成度は高まっていきます。

このページでは、あくまでビートの基本的な説明をしましたが、実際はストーリーのタイプによってビートの機能が変わったり、ジャンル特有のビートが置かれたりといった例外がたくさんあります。例えば、群像劇のようなメインキャラクターが複数いる場合、各キャラクターアークと全体としてのプロットアークを別に機能させることで、全体としてのバランスを保つ必要があります。過去の類似作品の成功例、失敗例と照らし合わせることで、効果的に機能させる方向を探っていくことができるのです。

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